美術教育を単なる方法論として捉えるのではなく、ものづくりの原点に立ち戻り、人間の潜在的な能力や創造性を伸ばしながら、他教科や様々な分野と関連させ、総合的な人間形成を行うために活かしていくには、どのように美術教育を発展させたらよいかを研究の中心に据えている。美術教育は、感性を高め、心豊かな人間形成を目指す上で極めて重要な教科の一つであり、また、美術教育は、文化的視点を与え、国際性を育むとともに、児童生徒の発想力・構想力を高め、将来様々に活かすことのできる能力を発展させることができると考えている。
1996年にベルリンのバウハウス資料館(Bauhaus-Archiv)において調査研究を行った。この調査により、書籍では知ることのできない当時の手書き資料(日記・書簡・草稿等)やオリジナル作品を調査し、更に現地の研究者から多くの聞き取り調査を行うことができた。これら一連の調査から、当時のバウハウスの教師の思索を知ることができた。併せてドイツで学校視察(ギムナジウム・ゲザムトシューレ)を行い、ベルリンにおける美術教育の現状について研究を行った。この視察により、ドイツの美術教育の現状の一端を知るとともに、現在どのようにバウハウスの教育が学校教育に活かされているかについて報告することができた。
イッテンの研究では、文献調査だけではなく、イッテン夫人をはじめイッテンの御遺族や日本人留学生本人にも会い、研究を深めることができた。
また、バウハウスに関連するイッテン・シューレと日本人とのかかわりについては、国内は勿論海外ではほとんど知られていなかったため、私の研究については国内外からの問い合せも多い。NHK新日曜美術館の担当者からは、NHKが欧州で行った取材の際に海外の研究者が私の研究を紹介したことから番組制作のため論文を資料提供してほしいと依頼され、ベルリンのイッテン・シューレにおける竹久夢二の日本画授業についてまとめた拙稿を資料としてNHKに提供した。これは2002年7月21日に「NHK新日曜美術館 独逸(ドイツ)、夢のかなたへ・知られざる竹久夢二」として放映された。また、2003年にアジア・デザイン国際会議において、ヨハネス・イッテンに関する研究発表(英語)を行ったところ、カナダ・韓国等海外の研究者から関心を寄せられ、問い合わせが多かった。ヨハネス・イッテンに関する拙稿は、以下の海外文献において紹介された。
・Johannes Itten und die Moderne, Hatje Cantz Verlag, Deutschland, 2003.
・Johannes Itten Alles in Einem-Alles im Sein, Hatje Cantz Verlag, Deutschland, 2003.
・Johannes Itten Wege zur Kunst, Johannes-Itten-Stiftung, Hatje Cantz Verlag, 2002.
・Avantgarde im Dialog, Bauhaus DaDa und Expressionismus in Japan, Bauhaus-Archiv, Berlin, 2000.
ヨハネス・イッテンの芸術教育に関しては、今日再評価されており、ドイツ・スイスから巡回する大規模な展覧会が開かれた。この展覧会は日本にも巡回し、2003-2004年に日本で初めてイッテンの展覧会「ヨハネス・イッテン 造形芸術への道」が開催された。同展覧会において、開催美術館である宇都宮美術館からの依頼により展覧会の関連企画でイッテンの美術教育に関する研究発表を行った(同展は、京都国立近代美術館・東京国立近代美術館を巡回)。