1)新しい宿主免疫マーカーを用いた十全大補湯の免疫増強効果の解析
手術療法、化学療法、また放射線療法により一次寛解を得た癌患者の再発防止の目的で、従来より免疫賦活剤が広く用いられてきた。しかしその効果には個人差があり、また免疫増強効果の客観的評価法が確立していない現状から、他の確立した治療法の補剤としての臨床的位置づけの範疇を脱していない。十全大補湯は宿主の免疫系を活性化し、転移、再発抑制効果がマウスで報告されている。しかし、担癌患者への投与における臨床的および免疫学的評価はほとんどされていない。われわれは、担癌患者の末梢血単核球の単球(M)とT細胞(T)の比の乱れが、killer T細胞(CTL )誘導を規定し予後を左右する重要な要因であることを明らかにし、免疫状態の評価として、また再発の早期予知の指標としてM/T ratioという新しい免疫マーカーを確立した。教室では、婦人科癌・消化器癌を中心に十全大補湯の宿主に及ぼす免疫増強効果をこの新しい免疫学的評価法を用いてin vitroおよびin vivoで検討し、新しいbiological response modifier(BRM)として確立することを目的と実験を進めている。
2) 宮内膜症の病態に関わる免疫ネットワークの解析
子宮内膜症は月経困難症や骨盤痛など成熟婦人のQOLを著しく損なう疾患で近年増加傾向にある。その病因として化生説や移植説が提唱されているが、一方では子宮内膜が異所性に増殖し機能する点から類腫瘍疾患ととらえ、免疫応答異常の関与が注目されている。特にマクロファージとnatural killer (NK)細胞の機能についての研究が進んでいる。教室では内膜症婦人でNK receptorであるkiller inhibitory receptor (KIR)が増加していること、またマクロファージの細胞間伝達分子の発現が低いことを初めて証明した。これらの免疫異常は内膜症細胞の異所性生着を促す免疫寛容の存在を示唆している。今後はcytokineとの関連性も含め、内膜症の病態に関わる免疫ネットワークを解明する予定である。